定年時計
2011/6/30 佐藤弓枝 さん新婚時代は、主人の帰りを待ち侘びて、二人で買った置時計を何度も見てはため息をついていたものでした。時計の針を進めてしまいたくなるほど愛おしく想っていたのでしょうね。
子供が生まれ、主人の帰りを待つ事もなくなり、家事と育児に追われるようになりました。
あの頃は何をするにも時間が掛かり、今の様にボタンをひとつ押すだけで気が付くと何もかも出来上がっている時代ではありませんでしたからね。
お洗濯するにも、ご飯を炊くにも時間が掛かりました。特に私達は北海道で暮らしていましたので、冬は早朝に出掛ける主人より更に早く起きてストーブに火を入れるのがとても大変でした。
雪の中を外の石炭小屋から石炭を運ぶだけでも重労働でしたし、寒くて手がいつもかじかんでいて軽い凍傷をおこす事もあり、今でもその頃の痕が手の平に残っています。でも最近になって、私はまた時計を気にする様になったのですよ。
何故なら、ようやく定年を迎えた主人が突然働きだしたからなのです。
私としては、これから二人でのんびり暮せるとばかり思っていたのに、寝耳に水のような状態で、何の相談もなく決めてきてしまったのです。
一度決めたら梃子でも動かない主人ですから、私も潔く諦めて、毎日お弁当を作って平静を装い送り出していますが、主人が就いた仕事が倉庫の仕分け作業ですので、本当は、若い人に混じって大丈夫かしら?邪魔にされてはいないかしら?と、気が気ではないのです。
今迄の役職が邪魔をして変なプライドを持ってやっていては、周りの皆さんも困惑するでしょうし、年を取っているからといって休み休みやる訳にもいかない筈です。私の心配は尽きることなく続きます。時計の針を何度も見ては心配している私ですが、そんな私の心配を他所に、主人は以前より元気に帰ってくるのです。私の聞きなれない言葉を使うようになったり、宝の持ち腐れになっていたパソコンに向かう機会も増えてきたりと、若い人との交流で、心が若返っているのが目に見えて解るのです。
定年を迎えたばかりの頃の主人は気が沈みがちでしたので、「餡子の入っていない最中みたいよ。」と、いつも発破をかけていたのですが、今では餡子が飛び出してしまいそうなほど活力に溢れているのです。
会話も随分と増え、まるで新婚時代が返ってきたような毎日です。
そう云えば、定年になる数年前からどんどん口数が減っていた主人、きっと「まだまだやれる!」と思い、悩んでいたのでしょうね。
定年は会社や人様が決めるものではなく、自分で決める物なのかもしれない、と最近の主人を見ていて私はそう思うのです。ちょっと多いかな?と思って作るお弁当もキレイに空になって戻ってきます。
血圧が高めで身体の事も気がかりでしたが、最近受けた検診でも何処にも異常はみられず、血圧も下がっていて驚いた程です。
スーツを着て無言で出掛けては、黙って帰ってくるだけの主人だったのに、今では別人の様に明るくなり、少し変な感情かも知れませんが、若返っていく主人に嫉妬してしまうのです。ゼンマイ時計のネジを巻きながら、「まだまだ大丈夫よ。」と心に言い聞かせて主人の帰りを、首を長くして待っている私です。
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