文人の食卓 凡人の食卓
2011/7/19 定年シニア さん嵐山光三郎の『文人悪食』は、明治以降の文人たちを「食」という切り口で論じた抱腹絶倒の名著である。
泉鏡花の食生活は病的に潔癖で、真夏でも煮沸したての熱いものを食べたとか、中原中也は、ダダイストを気取って「さらし葱のソースかけ」などという、世にも珍妙なものを食べていたとか、天才たちの実にユニークな食卓が、作家論を織り交ぜながら楽しく紹介されている。それでは、シニア文学愛好家を自認する私の食卓はどうだろう。
「朝」ご飯。味噌汁。できれば母の味付。鮭か鯵の開き。ウドンならかき玉。蕎麦は月見で卵は生。トーストにハムとレタスでサンドイッチ。・・・健康的であります。「昼」残りご飯。味噌汁とおかずも残り。すき焼きなら卵とじ。カツはソース煮。カレーの残りは、牛乳を少し入れて温める。残りご飯でハムと玉葱入りのケチャップ焼き飯。・・・なかなか経済的です。
「晩」ビールを飲んで、蒲鉾と冷奴。枝豆やトウモロコシ、サンマなど季節のもの。おでんやお刺身は冷酒で。ツマは全部食べてしまう。晩酌の後は、胡瓜や白菜の漬物でご飯を一杯。・・・とても庶民的です。
友とヤキトリを熱燗で。そして、避けるべきとは知りながら、飲んだ後のラーメンとゆっくり吸う食後の一服。・・・こちらも庶民的であります。
うーむ。健康的、経済的、庶民的か。残念ながら、哀れを催したり、魑魅魍魎が垣間見えたりするような文学的な香りは皆無。見事なほど生活感が溢れる、これぞ凡人の食卓。これでは、文学はちょっと無理?
しかし、「食に理屈も蘊蓄も不要。おいしいものを、おいしく食べられればいいんだよね」などと凡人の論理を呟きながら、シニアになってもついつい食べ過ぎてしまう私である。嗚呼。文学の道は、遠く険しい。
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