過程(1)
2014/2/20 五月 さん昨年春から、文章サークルの定例会のあと、みなさんと近くのお店で昼食をとりながら、おしゃべりを楽しむようになった。
かっては「夫が待っているから」という理由をつけて、みなさんがお店に入っても、わたしは、さっさと帰宅した。まるで理解のない夫と暮らしているかのように。
実はわたしの心に、「あと何年夫と共に食事ができるだろうか。二人の時間を大切にしよう」という思いが、老いと共に強くなり、付き合いの悪い人間を貫き通した。
――この思いは、戦後の混乱期、夫と別居を余儀なくされたことも、起因しているが。
夫は「付き合いは大切に」という考えの人であり、若い時から友人と長い旅行にも出してもらえた。
また六十代になって公民館の運営審議委員をしていた時も、忘年会など夜の外出にも、「二次会があったら参加しなさいよ」と送り出してくれた。
サークルの定例会から帰宅し「みんなジョナサンに寄ったけど、帰って来ちゃった」と言うわたしに、「一緒に食事してくればよかったのに」という言葉が必ず返ってきた。
夫によって束縛されたことは一度もないのに、自分で自分の心を拘束したのであった。
昨年一月、独居老人となった。
間をおかず、夫への思いをいとも簡単に、するりと抜け出し、定例会のあとみなさんとご一緒して、楽しいひと時を過ごす。
足の悪い老会員として、みなさんにいたわられ、箸やスプーン、フォークまで揃えてもらい、お客様のようである。
二月二日の定例会、昨日のことであった。
七十歳代とみられるご婦人が、一人黙々と食事をされているテーブルが目に入った。
その情景に「一人暮らしの方だろうか、食事の変化を求めて、こういう店に来るのだろうか」。そんな思いが、一瞬わたしの頭をかけめぐった。
帰宅して、ふっとお一人で食事をしていた方の後姿が目に浮かんだ。
勝手に人様のことを、一人暮らしだろうかなどと想像したのは、無意識に一人で食事をする、我が身に置き換えたのかもしれないと思い当たった。
健康維持のため、夫がいた時と食事形態は変わることはないけれど、食卓の向こうには誰もいない。
「おいしかったね」とか、「味濃過ぎたね」などと交わし合っていた声は、耳をすませても、どこからも聞こえてこない。発することもない。
食べたいと思う物もなく、あったとしても、材料を揃える術もなければ、調理もままならない。
※続く
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