雷雨にて

2011/8/11  佐藤一代 さん

定年生活投稿、雷雨にて天を逆さにしたような突然の雷雨に心が躍る。
稲光りと共に子供の頃の記憶が蘇るのだ。
電気を消して姉と二人、布団の中で怖がりながらも薄眼を開けて次の稲妻を待っていた。私の子供の頃の思い出と言えばそれくらいのものだ。
両親が共稼ぎだった為、夏休みと言っても特に旅行に行くでもなし、特別なお楽しみもなかったが、周りの誰を見ても皆が皆同じ様に暮らしていた様な記憶がある。
夏休みに出掛けるのは、せいぜい親の実家か墓参りくらいで、旅行と言えるようなレジャー的要素のある物は皆無だった。

自分も二人の子供を授かったが、私達も両親同様共稼ぎの毎日で、子供達を何処かに連れて行く事もしてやれなかった。子供達はそれについてとやかく言う事もないまま大人になったが、私としては少し残念と云うか気の毒に思う事が何度かあった。
彼等は私達が育った時代の人間ではなく、少子化時代に突入した頃の子供達だ。夏休みには何処か旅行に出掛けたり、レジャー施設に行っている同級生が何人も居ると云う話を聞かされたものだ。
同級生から、旅行のお土産を貰ってくるばかりで、その度にお返しの鉛筆を持たせたものだった。
それでも「何処かに行きたい、連れて行って」と、私達にねだる事も無い子供達だった。

その子供達も結婚して今では孫が5人になった。
息子夫婦も、娘夫婦も共稼ぎなのだが先に孫だけを連れて来て、盆休暇に自分達が顔を出す。ここは観光地が近くにあるので早い時期からホテルに予約を入れて皆で泊るのが、ここ数年の我が家の恒例となっている。
孫達がもう少し大きくなったらキャンプをしよう、コテージを借りるのも良いかもしれないな。今は海外旅行の方が安いプランが揃っているから考えられなくもない。
定年を控え、私の近い将来の夢はどんどん膨らんでいく。

妻も孫の事に関しては、出無精を他所に張り切った様子で私の話しを聞いてくれる。
何年か前に「海外旅行でもするか?」と聞いた時には「海外旅行なんて嫌よ!」と即答したにも関わらず、孫と一緒となると「パスポート作っておいた方がいいかしらね」等と言うではないか。
妻もまた、私と同じ境遇で育ってきた人間だ。

先日の雷雨の折、「ねぇ、こんな事を言ったら不謹慎かもしれないけど、私雷が落ちるとワクワクするのよ、子供の頃を思い出すわ」と、言うのである。
そして、私と同じ様に「夏休みの想い出と言ったら、雷雨の日に外に飛び出して行ってびしょ濡れになって遊んだ事くらいかしらね?」と、孫のアルバムを老眼鏡で見ながら言うのである。
「そうだな。俺達の時代は雷様くらいしか遊んでくれなかったからな。子供達に何もしてやれなかった分も孫と遊んであげようじゃないか。」

夏バテ気味で少々食欲が失せてはいるが、孫の為に妻と二人向かい合って、食事を無理に胃の中に流し込んでいる今日この頃である。
孫と子供の面影を重ねて、子育て時代の悔いを改めているのかもしれないな、と私達は稲光をぼんやりと見つめて思っているのだ。

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