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独りの夏(1)

2011/9/16  五月 さん

老後の生活|独りの夏季節ごとに夫とめでてきた山小屋。万緑に囲まれる夏は、コバルト色の空が辛うじて、ベランダから樹々の上に広がって見える。

今年は独りで過ごす境遇となった。といっても、娘や孫、息子家族が、八月初めから二十日まで交替で、わたしと共に暮らしてくれた。お互いに都合をつけあった夏休みも終わり、二十一日から、月末まで、一人暮らしのつもりであった。
ところが次の土曜日二十三日に、娘が来て月曜の朝帰るという。わたしを一人にするのが心配だからという理由。
昨年も週末ごとに来てくれたが、孫が勤めるようになり、土曜出勤や出張もある。家族の世話で、体に無理がいくのが目に見えている。いくら新幹線で、家から二時間ほどで着くといっても、あまり丈夫でない娘を疲れさせたくない。

わたしは田舎育ち、隣家の無い山中であろうが、怖いことなどはない。冷蔵庫に食料さえ入れておいてもらえば、独りで暮らせる。
「来なくていいから、だいじょうぶだから」
「本当にいいの、だいじょうぶ?」
「何かあったら、駆けつけてくれる親類もあるんだから平気だって」
娘と何回もやり取りの末、私の言い分が通り、冷蔵庫を満たして娘は帰って行った。
けれど毎日電話が入る。物忘れがひどくなったことと、頭と足が悪いだけで、自分ではまだしっかりしている心づもりでも、周りから見ると放っておけない老人に見えるのだろう。

案の定、突然土曜日に「叔母ちゃーん」と姪夫婦が訪ねてくれたり、実家の甥が、わたしにとって兄嫁である母親を、連れて来てくれた。次は、九十八歳の姉を連れて姪二人が来てくれた。ここは山の上とて、車がないと来れないので、姪や甥が車で送ってきてくれることになる。
来客と言いたいが、さにあらずみんな、わたしの分の食事まで持ち込んできてくれ、わたしは座したまま馳走になる。使用した食器などもきれいに片づけてあり、わたしは幸せこの上ないお客様であった。

今迄も、親族で故郷を離れたのは、末っ子のわたしだけだったこともあってか、信州へ行くといたわられてきたが今年は、夫が逝ったことでいちだんと気遣いをしてくれ、あっという間に五日間が過ぎてしまった。
家の中は、昨年夫と暮らしたままになっている。二人で遊んだオセロをはじめとしたゲームのあれこれ。夫の食器、洗面用具、夫が一手に引き受けてくれていたお茶道具、杖、靴、衣類。目につく度、「あぁお父さんの」と思うけれど、独りの時間がないため、追憶に浸る時とてない。
わたしは思う。これでいい。もう夫は戻ってこない。残りの数日、独りの日々を楽しもう。

平成二十年八月二十七日夜記

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