これ以上ない贅沢
2012/4/2 遠くへ行きたい さん先日、これまでの人生の中で、もっとも贅沢な旅行から帰ってきた。列車での日本縦断だ。
列車での旅の何が贅沢なのか、と思う人もいるだろうが、私にとってこれ以上の贅沢はない。なぜなら、「時間を贅沢に使ったから」だ。会社に勤めていた頃は、連休があってもせいぜい数日、1週間の休みすら実現することはなかった。だから旅行も目的地移動までは飛行機中心、さらに観光地も駆け足で回るなど、慌ただしいことこの上ない旅ばかりだった。
しかし定年を過ぎた今となっては、自分たちのためだけに使える時間はたっぷりある。現役時代には絶対にできなかったこの列車旅行を、私は定年前からずっと楽しみにしていたのだ。今回の旅行プランは行き当たりばったりで、乗る列車も泊まる宿もその場で決める、というやり方だった。鹿児島からスタートし、列車で行きたいところに行って、適当に進んだらそこで宿を探す、この繰り返しだ。だからいつ家に帰って来れるかも分からないという状態だった。こんなやり方ができるのも、定年を迎えたからこそだ。妻はあまりにも行き当たりばったりのこの旅行に最初は不安そうだったが、旅を続けるうちに「日本国内なら宿はたいていどこでもどうにでもなる」ということを実感してきたようで、途中からはすっかり楽しんでいた。
飛行機で一気に目的地に到達する旅行とは違い、列車での旅行には「味」がある。特に、のんびりと走るローカル線で車窓から景色を眺めるのは最高だ。同じ日本国内でも、地方によってこれほど趣に違いがあるのか、ということもあらためて実感した。旅の途中、気に入った温泉宿では連泊して、ちょっとした湯治もさせてもらったのも、これまた良かった。時間や日程に追われない、勝手気ままな旅行が、これほどの癒しになるとは。
これまで自分が行ってきた旅行は何だったのだろう、と考えてしまうぐらい、桁違いの満足度だった。とはいえ、いくら定年後といえど、こんな旅行がしょっちゅうできるわけではない。家に帰れば「数週間放置された家」の現実に、妻は一気に引き戻されてしまった。「また行きたいな」の私の言葉に、返って来た返事は「たまにはね」だったので、次にこうした贅沢旅行ができるのは、何年も先のことだろう。だが「また、たまには行ける」というメドはついたのだ。だから私は、もう次回の贅沢旅行に思いを馳せている。
私と同年代かそれ以上の年代の人から「退職したあと、何をしていいか分からない」「燃え尽き症候群のようにボーッと毎日過ごしているだけ」などという話を聞くこともあるが、私としてはそれは非常にもったいないことだと思う。こうした贅沢旅行以外にも、時間に余裕がある定年後だからこそ、できることがあるのではないだろうか。老後は、自分の手で充実させるものだと思う。私も旅行以外でも、もっともっと「定年後だからこそできる楽しみ」を見つけていきたい、と欲張りなことを考えている。
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