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即位の礼・大嘗祭関連の憲法訴訟を振り返ります。

2019/11/16 

天皇陛下の即位に伴う大嘗祭が2019年11月14日から15日未明にかけて行われました。「一世一度の極めて重要な皇位継承儀式」(宮内庁)とされる大嘗祭。天皇が新穀を神々に供えて祈る宗教色が強い儀式で、現在の上皇陛下が即位された平成の大嘗祭にあたっては、皇室の私的行事ではあるが、公的性格も有するとして、国費を支出して行われました。
 その結果、政教分離の観点から多くの訴訟も起こされました。

 そこで、まずは憲法20条が規定する政教分離原則から見ていきたいと思います。

信教の自由が人権カタログ中で重要な理由

 私たちの生活は多くの自由が保障されているますが、特に自由主義は近代の宗教的抑圧対する反発から発達し、その後、血塗られた殉教の歴史を経て発達した(後掲・芦部116頁)歴史を有するといわれています。
 現在でも中東の一部の国では宗教弾圧が行われ、自由はもちろん、迫害や難民を生んでいる事実からもこうした「信用の自由」が多くの人権カタログ(※)の中で極めて大事な人権であることが分かります。信教の自由が「人権の花形」と称される理由はここにあるのです。
 
憲法20条が保障する信教の自由とは?

 日本国憲法20条1項前段は、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」と定めています。ここでいいう信教の自由は信仰の自由、宗教的行為の自由、宗教的結社の自由が含めれています。さらに憲法20条1項は後段で「如何なる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と定め、憲法20条3項は、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めています。

 これは国から特権を受ける宗教を禁止し、国家の宗教的中立性を明示した規定と言われています。いわゆる「政教分離」規定ともいわれ、この政教分離規定を財政面から裏付けているのが、「宗教上の組織若しくは団体」に対する公金の支出を禁ずる憲法89条です。


(写真はイメージです。本文の記載とは一切関係ありまっせん)

政教分離といってもいっさいの関りを禁じているわけではない

 国家と宗教の分離といっても国家と宗教の関りを一切、排除するわけではありません。たとえば、とある宗教法人が運営する私立学校に国家が補助券を給付することは一般論から言えば、憲法違反には当たらないと言われています。問題はその境界線といわれており、こうした基準では目的・効果基準と呼べれる基準が違憲判断において用いられてきました。

目的・効果基準とは・・・

 目的効果基準とは、ある公権力の行為が、①その行為が世俗的目的をもつものかどうか、②その行為の主要な効果が宗教を振興しまたは抑圧するものかどうか、③その行為が宗教との過度なかかわりあいをうながすものかどうかという3要件を審査します。
 その結果、1つの要件でもクリアできない場合には、その行為を違憲とするものです。これはもともとはアメリカの判例理論ではありましたが日本でも昭和52年7月13日の津地鎮祭最高裁判決でもこの基準が採用され、以下、日本の判例においても用いられるようになりました。

大嘗祭には違憲、合憲判決が混在していますが、最高裁は合憲と判断

 昭和から平成に代わる際にも行われた大嘗祭。平成の時代にはこうした儀式に関連して多くの憲法訴訟が提起されました。下級審段階では、合憲判断と違憲判断が混在しています。

違憲判断

 大阪高裁平成10年12月15日判決は、「宮中の新嘗祭のために献上する米・栗の募集行事である献穀祭に近江八幡市が行った公金支出をこの行事が宗教的色彩を色濃く帯びていることから政教分離に違反」するとしました。

合憲判断

 平成10年12月1日に福岡高裁宮崎支部では知事の大嘗祭への参列を目的効果基準に照らし、合憲としています。さらには平成11年3月24日の東京地裁判決でも東京都知事の大嘗祭への出席を目的効果基準に照らし、合憲としています。

 こうした判例の流れから儀式そのものは宗教的色彩を持つとしても、社会的儀礼として敬意・祝意を表するために儀式に参列することは政教分離原則に反しないという流れが強まり、最高裁も平成14年7月11日の判決で目的効果基準に照らし、合憲と判断しました。

欠席をする方も・・・

 こうした最高裁の合憲判決を受け、前回の大嘗祭では党としては欠席した公明党は方針をかえ、山口那津男代表が出席する意向を表明しました。一方で、今回も社会党の後継政党である社会民主党は、「(大嘗祭は)宗教的な儀式の要素が非常に強い。政教分離に反し、適当ではない」と述べ、党として欠席すると明らかにしました。

 政教分離の原則に関する憲法の論点は難しい論点を多く含むものですが、極めて概括的に振り返ると上記のような流れになります。

※人権カタログとは、信教の自由や表現の自由、人身の自由や社会権といった憲法が保障する人権の総称。一般に、人身の自由と表現の自由は他の人権と比べてもその保護は厚いとされている。

(文責・定年生活事務局)
参考文献:芦部信喜『憲法学Ⅲ 人権各論1増補版」(2000年 有斐閣)
     引用は全てこの文献によっています。



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