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日本学術会議任命拒否で沸き起こった憲法23条が保障する学問の自由 学問の自由規定制定までの歴史

2020/10/25 

これまで、憲法に関する議論として、主に天皇制をめぐる議論(9回)、そして憲法9条に関する議論を8回に分けて紹介してきた。2020年9月に菅内閣が誕生すると、日本学術会議に推薦された6人の教授の任命拒否問題が起き、こうした政府の対応が憲法23条が保障する学問の自由を侵害する行為だという反対意見が出されるようになった。

 実は諸外国において、学問の自由を正面から規定する国は意外に少ない。もともと学問の自由は、人の精神的活動の本質な領域に属するものとされ、その活動は外部に表現されるのが通常であるので、思想の自由や表現の自由の中で当然に学問の自由は保障されているとする国が多いのがその理由である。

 わが国では、学問の本質は、真理探究の精神にあり、そういう精神活動を伝統的に担った大学を中心とした研究機関こそ、「国家の良心」として民主政治の発展を支える基礎でありながら、一方で権力による干渉や弾圧を受けやすい学問の自由そのものに独自の高い価値を認め、それを憲法で独自の保証をすることにしている。

 そこで、憲法23条が保障する学問の自由について明治憲法の時代から日本国憲法の時代までどの様に変遷したかを振り返ってみる。

明治憲法には学問の自由を認める規定はなかった

 大日本帝国憲法では学問の自由はどの様に保障されてきたのだろうか?大日本帝国憲法29条では以下の様に規定している。

「日本臣民ハ法律ノ範圍内ニ於テ言論著作印行集會及結社ノ自由ヲ有ス」

 これは日本国民は、法律の範囲内において、言論、著作、印行、集会及び結社の自由を有するというないようであり、どちかというと憲法21条の表現の自由に近い内容である。その表現の自由の一部としての言論・出版・集会などについて、一般に自由権としての権利を認めるものであり、また同時にそれらの権利は法律によって制限を課されることがあることを規定したものでもあった。
 ただし、ここでは学問の自由は正面からは認められず、国家のための学問の自由という理念であった。そのため、いわゆる滝川事件、天皇機関説事件などが起きた。

滝川事件・天皇機関説事件とは?

 俗には京大事件と言われている。1933年、京都大学法学部の滝川幸辰教授の刑法学説があまりにも自由主義であるとし、著書を発売禁止とし、休職を命じたところ、法学部教官全員が辞表を提出し、これに抗議。文部省の切り崩しにより、瀧川教授のほか、佐々木惣一、森口繁治など6教授が免官になった。

 その2年後には東京大学名誉教授で貴族院議員の美濃部達吉博士が国家法人説に基づく天皇を国の機関、天皇の主権を最高機関の意思とする天皇期間説を発表。これを国体に反するとし、著書は発売禁止となった。
 美濃部博士は貴族院議員を辞職したが、政府は学説を公式に否定するに至った。

 以上が、第2次世界大戦前に起きた学問に対する政府の介入である。いずれも個別の学説や研究に対し、政府が介入していることが分かる。

第2次世界大戦後、学問の自由を独立して保障することにした

 その後、敗戦後、GHQの統治下となった日本ではマッカーサー草案に基づいて、「大学における教育及び研究の自由」という原案があった。これを「大学の自由」と「職業選択の自由」とに分けて保障する構想があった。
 が、大学の自由と職業選択の自由は結びつきが強くないという理由から、日本側の提案でし、学問の自由だけ保障する独立の条文を作ることにした。結果、「学問の自由」という現行の規定が憲法23条として受け継がれることになったのである。

しかし、憲法23条が出来ても学問の自由と公権力との衝突が起きる。いわゆる東大ポポロ事件と呼ばれる大学内の自治に関する内容が争われた事件である。

東大ポポロ事件とは?

 ポポロ劇団は1952年2月20日、東京大学本郷キャンパス法文経25番教室で松川事件をテーマとした演劇『何時(いつ)の日にか』(農民作家・藤田晋助の戯曲、1952年1月発表の上演を行なった。これは大学の許可を得たものであった。上演中に、観客の中に本富士警察署の私服警官4名がいるのを学生が発見し、3名の身柄を拘束して警察手帳を奪い、謝罪文を書かせ、学生らが暴行を加えた事件である。

 第1審・第2審共に学生の行為を大学の自治を守るために行った正当防衛であるとしたが、最高裁判所はこれを覆し、学生側の行為を「有罪」とした。ただし、あくまでこの事件では学問・発表の自由と大学の自治のあり方が問題となった事例である。

 以上のような経緯や歴史をふまえつつ、憲法23条の保障する学問の自由は現代に受け継がれている。
 それでは学問の自由とは無制約な内容なのだろうか?近年ではこうした問題が積極的に議論されている。次回以降、こうした問題を見ていきたいと思う。

(文責:定年生活編集部)
参考文献:芦部信喜『憲法学Ⅲ 人権各論1(増補版」(2000 有斐閣)



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